vol.7 成沢正胡さんと「茶懐石」のおいしい関係
- この方にお話をうかがいました
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料理家 成沢正胡(なるさわ まさこ)さん
1968年生。6年間の懐石料理アシスタント業の傍ら、和食の教室を始める。現在は教室をメインにTVの料理番組等仕事の場を広げている。旅先での美味しいもの巡りや、器や雑貨探しが好き。 »プロフィール
お茶の世界に関心はあっても、敷居が高く感じられる方も多いのではないでしょうか。今回は、茶懐石のエッセンスを学びながら、のんびりと食事を楽しむことができる「和の料理教室 憂楽々(うらら)」にお邪魔しました。
- 「茶懐石」との出会い
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会席は酒席や宴席、懐石は茶席に則した、一汁三菜を基本とする和食の料理形式。茶懐石というのは、特に茶道の一環で、一期一会の精神にのっとって客人をもてなすフルコースのことをいいます。成沢さんは、ご自身が主宰する料理教室で、年2,3回、この茶懐石のクラスを設けています。
茶懐石との出会いは、20代後半の頃。懐石料理の教室でアシスタントを務めていたとき、はじめて「茶懐石」という言葉を耳にします。主に製菓やフードコーディネートについて学んできた成沢さんにとって、日本料理や和食はともかく「茶道のなかの料理」は、まったくなじみがないもの。
ですが仕事を続けるうちに、知れば知るほど奥が深い茶懐石の魅力に眼を開かれたそう。家庭料理の延長ということも関心を持つきっかけになりました。そして、次第に「若い方(当時の自分と同じ年代の方)にも、その魅力を伝えたい」「お茶を習っていない方にも、負担にならず、身近に感じていただけるような体験の場を設けたい」という気持ちが高まり、自ら料理教室をはじめたのだそうです。
- 「茶懐石」の良いところ
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茶懐石に触れた成沢さんが感じたのは、季節感あふれる日本料理のすばらしさ、日本人の所作の美しさでした。茶事は通年行われるものですが、花見の季節や新茶が出回る5月、茶が熟成する11月頃に催されることが多く、季節の食材を生かした料理や器、室礼(しつらえ・しつらい)でおもてなしをします。また出される料理は、飾りもすべて食用の素材で作られています。料理にも動きにも無駄がなく、ちょっとした仕草にも、相手への気遣いが感じられて「茶の心」に触れたような気持ちになったそう。挨拶をする時には相手の目を見て、ものを差し出すときには手をそえる…。おじぎや歩き方など、最初はぎこちない動作も、つづけるうちに自然と身についていくもの。さらに茶・料理・着物・道具など、さまざまな日本の文化に興味を広げていくことができるのも素晴らしい点。「水場(いわゆる台所)は、とても忙しくなるのですが、亭主はその忙しさを表に出さず、お客さまがゆったりとした気持ちになるよう配慮します」。お客役の生徒の方々からも、この時ばかりは忙しい日常を離れてゆったりとした時間を過ごし、「心が落ちつく」「体調が良くなる」といった声が聞かれました。
- 「茶懐石」とのつき合い方
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変化があったのは、生徒さんだけではありません。成沢さん自身も「茶懐石」と出会ったことで、以前は「外へ、外へ」と向かっていた意識が、次第に内面へと向かうようになりました。
時流を追いかけるのではなく、天候ひとつとっても、外のできごとを自分の気持ちや体調と照らし合わせて観察することができ、気持ちのぶれも少なくなったそう。その核のようなものが、成沢さんにとっての「和の心」であり、強さ・しなやかさに繋がっているようです。
「せっかく日本人に生まれたのですから、茶懐石に限らず、日本の文化に触れる機会を得てもらいたいです。たとえば、雑草でもいいので花を活けてみるとか、お茶を使ったお菓子を作ってみるとか。小さなことからはじめてみるといいと思います」「できる範囲ではありますが、茶事や着付けなども、興味のある方には、お教えしていきたいと思います」と、成沢さん。
お茶に興味のある方は、ぜひ足を運んでみてくださいね。 - fin.
- わが屋の「茶懐石」ことはじめ
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茶道をはじめるなら、まずはカルチャースクールなどに通ってみてから、様子をみて本格的に入門するというのも手です。
「茶懐石料理の教室というのは、あまりありませんが、いいお茶の先生について、茶道全般を習うということが、所作など美しくなる秘訣だと思います」。自分でお茶を楽しむ際に最低限必要な道具は、茶筅(ちゃせん)と抹茶。初心者の方は、茶筅なら100本立て(1,500〜3,000円程度)のもの、抹茶ならスーパー等でも購入でき、種類が豊富な「一保堂」の商品がオススメ。ほかに成沢さんが愛用しているのは、まろやかで飲みやすい「小山園」のお茶。渋さのなかにも甘さがあり、すっきりとした後味がお気に入りだそうです。