vol.4 佐藤弘高さんと「蕎麦」のおいしい関係
- この方にお話をうかがいました
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日本麺技能士・専門調理師/教員・佐藤 浩孝(さとう ひろたか)さん
皇室・文豪など各界の名士や要人が訪れる、文政十二年創業「かぎもとや本店」で修行。神奈川県大和市にて『蕎麦卯月』の経営・そば教室および出張料理/指導を行い、そばの発展と継承に尽力する。»プロフィール
夏はもちろん年越しの時期にも、おなじみのそば。食べる楽しみのほか、気軽に参加できるそば打ち体験などを通して、その魅力に触れる人も多いのではないでしょうか。優れた健康食であり、口にすると何かほっとさせてくれる日本の伝統食。そばの魅力と楽しみ方を、職人・佐藤弘高さんにうかがいました。
- 「蕎麦」との出会い
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昭和55年、小学校3年生の頃に父が手打ちそば店を開業。開店報告に行った先の手打そば屋で、大旦那に「一人前に打てるようになったら食わしてみろ」と言われた佐藤さん。幼い頃から、修行中の若者衆にまぎれて仕込みを手伝っていました。「ゆで加減を見るため、そばを1本すする姿を真似て、つまみ食いしたりもしていましたね。おいしかった。同じそば粉でも打ち手が変われば味も変わる。そんなことを、子供ながら不思議に思ったのを覚えています」。その後、テレビで見た、一心不乱にそばを打つ品川の老舗・布垣更科の伊島氏の姿に憧れを抱き、修行。一時は家業から遠ざかったものの、さまざまな職種を経てそば屋に戻ります。あるとき「そばのことを何も理解していない」ことに気付き「ただ無性に、そばを知りたい」と思うようになったのだそうです。
- 右/繊細さと力強さを併せ持つ職人の技。そばと向き合う佐藤さんの表情は、真剣そのもの
- 「蕎麦」の良いところ
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「世界的に見てもローカロリーで、これだけの栄養が含まれる麺は、そばくらい。そのヘルシーさ、日本の伝統食であること、手間なく食べられることが魅力です」「全粒粉そばの栄養は、ミネラル8種類、ビタミンE・K・B1・B2・B6・ナイアシン、アミノ酸9種類、体内で生成できない必須アミノ酸9種類を多く含み、タンパク質は白米を凌ぐ量」江戸時代、白米が庶民の口に入るようになって脚気(かっけ)が流行したが、そばを食べている人には症状が見られなかったという逸話もあるそう。「特に成長期のお子さまや高齢者の方におすすめしたいですね」「私自身、長年そばを食べているからか、同年代の方と比べてシワもなく、実年齢よりも若くみえるようですよ(笑)。そば屋のご夫婦は70歳を過ぎても現役の方が多い。これも、そばのおかげと言っていいのでしょうか。不思議ですね」
- 左/そばづくりを支える道具も数々の職人たちの手から生まれたもの。その形や色の美しさを見るだけでも、しっくりと手になじむ使い心地の良さがうかがえる
- 「蕎麦」とのつき合い方
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「そばは、家族の次に大切。今思えば、大旦那は私の勝ち気な性格を見抜いて、憎まれ口の年寄り役を演じてくれたのかもしれませんね」お父様がお世話になっていた大旦那のひと言で、小学生にして、そばづくりに夢中になった佐藤さん。
大人になった今でも、時を忘れて専門書を読みふけり、調理器具や食器・旬の食材を探しまわって、ご家族に叱られることがしばしば。私生活でも、常にそばのことを考えているそうです。
「そばは、気まぐれな師匠でもあります。日々違う顔を見せる禅問答のよう。『智・技』を同時に高めなければなりません。粘性・挽き加減・水分含有量といった、粉の状態を判断するための対応力を身につけるわけです」
「また、そばは麺以外にも実の状態や、粉末にした状態、焙煎加工を施した状態でも料理が可能です。好みのお店や奥深いそばの魅力を探るのも楽しみのひとつですね」
- fin.
- わが屋の「蕎麦」ことはじめ
- そばづくりに挑戦したい方に向けて、佐藤さんにそばづくりのコツをうかがいました。「技術面でいえば適した道具を使うことが大切。初級の生徒さんでも私の道具で打ったら中級以上の仕上がりになって、本人も驚いていました。卯月の道具は人間国宝や技能表彰を受けた職人の手によるもの。販売もしているのですが、使い心地が良く芸術性の高い仕上がり。購入した方はオブジェとして飾られることもあるよう。もちろん、ちゃんと使わなければ上達しませんね」まずは、気軽な気持ちで、ご家族やお友だちと休日のそば打ち体験に参加してみましょう!「そばづくりは、自身だけでなく周囲も楽しくなれますよ」