プロ料理家365名によるプロのレシピ4812

産地と食卓の往復書簡スペシャル 東北のおいしい食を応援しよう Vol.2

気仙沼で1912年に創業し、来年100年目を迎える蔵元男山本店さんは、全国にいくつかある男山のうち、創業者が京都・伏見の岩清水八幡宮(別名・男山八幡宮)への製造免許の御礼祈願のおり、八幡宮宮司より拝受した名前の由緒ある酒蔵です。

今回は、菅原昭彦社長に震災時のこと、その後の酒造りについてお話をお伺いしました。

震災の被害

3月11日は気仙沼港沿岸にある、国の有形文化財にも指定されている本社家屋にいらした菅原社長。地震直後、津波の来る前に、港から200~300m離れた高台にある酒蔵に避難したので無事でした。社員もみな築100年の酒蔵から逃げ出し無事、津波は門柱の少し手前で止まり、幸いなことに酒蔵自体に大きな被害はありませんでした。

それでも、震災の被害は甚大でした。

「1つ目は、本社家屋が倒壊し、小売店舗と本社機能がやられたことですね。1,2階がつぶれ、3階だけが残ったのですが、パソコンや書類が全て向こうにあり、半分以上のデータがなくなりました。

2つ目は、鹿折地区という近隣で被害が1番大きかった場所にあった倉庫がひとかたもなく流れてしまい、資材(瓶、箱、段ボール、レッテル、詰める機械類)がすべてなくなったことです。

そして、3つ目が一番大きなことですが、取引先の多くが震災被害を受けたことです。」と、菅原社長。

男山さんの販売先は、8割が気仙沼市内の酒屋さんやスーパー・ホテル、飲食店など地元がメイン。そのうち8割強が被災しているので、売上は単純に7割減になりました。

不幸中の幸い~酒造りの葛藤

震災で本社や倉庫が倒壊する被害があったものの、酒蔵で生産途中だった「もろみ」の入ったタンクは2本無傷で残りました。

「もろみは生き物なので、残っている以上は続けないといけない」と思った菅原社長。幸い、杜氏が滞在していたこともあり、次の日からは操業再開しました。

酒造りにとっては、温度管理が命。本来ならば、もろみが入ったタンクの周りを冷水器を使って冷やし、酵母のバランスをとるべきでしたが、電気も水もありません。そこで、昔使っていた筒に非常用の氷を詰めて中から冷やし、電池式の温度計を使って管理していました。

ところがこういう事態だというのに、杜氏が全く自分のペースを崩さない、まさに職人気質の人。「電気も水もなくて何もできない中、まったく仕事の手を抜かない。やれることをやるだけ、というスタンスで動じない。本当のプロってこういうことかと思いました。そしてこんな状況なのに、僕の顔を見るたびに電気と水、と言ってくるんです(笑)」

温度が抑えられないと、発酵が進んでしまいます。氷も尽き、電気も水もこない中、どうしようかと思いを巡らせながら町中を歩いているときに、偶然 菅原社長は大型発電機を見つけます。さらに発電機を運ぶトラック、動かすための燃料や電気の配線なども。水は津波の被害がなかった場所に井戸水を汲みに行きました。知り合いが協力してくれ、なんとか発電機を設置して22日に1本目、24日に2本目の酒を搾ることができました。

「自分なりには葛藤があってね、まだ町には電気も水も通っていない中で、蔵の中だけはジャンジャン発電機と水を使って酒を搾るわけですよ。すごく抵抗がありました。」

けれど、その時協力してくれた全員が言った「気仙沼のためだから。生き残ったところは走るべきだ。」という言葉に勇気づけられ酒を造ることに決めたのだとか。「その時にもらったメールを思い出すと今でも目頭が熱くなります。」

今年のお酒

その時に搾ったこの「蒼天伝」はすぐに完売し、今は残っていたお酒や違う銘柄のお酒を販売しています。

「震災後は、北は北海道から南は沖縄まで、『自分は日本酒が好きだから飲むことで応援したい』という励ましのメールや電話、手紙などを添えて注文をくださる方が多く、勇気づけられ、感動しました。石垣島のお客様は、2000円の商品買うのに4000円の送料を払って注文してくださるんです。」

今年の酒造りは、通常11月からのところ、2ヵ月前倒しをして9月の初めくらいから始められるとのこと。酒米は、22年産の宮城県産米を確保。契約している米農家さんは、気仙沼の西の地区、一関市との境目の山の中で被害はありませんでした。お米を洗い始めて、搾るまでは約40日程度。早ければ、10月上旬には新しいお酒ができるそうです。

編集後記

取材後、「男山さんのお酒はどこで買えますか?」と言う私たちの問いに、「ここでも販売していますが、できれば気仙沼市内の酒屋さんで買っていただけるとうれしいです。」と菅原社長。

帰りに市内の仮設店舗で営業する酒屋さんで購入した「蒼天伝 特別本醸造」は、飲み口がやわらかく、港町のお酒だからか魚料理との相性が良くさらりと飲め、秋の新酒も今から楽しみです。

私たちにできること。東北のおいしい日本酒をはじめ、今後も飲み食べることで、継続して「食」からの復興支援をしていきたいと思っています。

こちらから購入できます
男山本店
宮城県気仙沼市入沢3-8
公式サイトhttp://www.kesennuma.co.jp/
オンラインショップ http://www.kesennuma.co.jp/?mode=f3

東北在住の料理家3名に、おすすめの東北食材とその食材を使ったレシピを伺いました。レシピの詳細はこちら

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