第56回 世界一贅沢なミュージアム・カフェ V&A
ヨーロッパのミュージアムの魅力は膨大な所蔵作品だけではありません。
展覧会の企画力の面白さ、さらに優れた眺望やインテリア、
食事がおいしいレストランやカフェがあるのも
ミュージアムを訪れる楽しみのひとつです。
中でも世界で一番贅沢なミュージアム・カフェといえば、
ロンドンのヴィクトリア&アルバート(V&A)美術館ではないでしょうか。
カフェ部分はモリスルーム、ギャンブルルーム、ポインタールームの三つの部屋からなり、19世紀後半に世界初のミュージアム・レストランとして作られた歴史を持っています。
1865年から78年にジェームズ・ギャンブルによって
作られたことからこの名があるギャンブル・ルーム。
当初からレストランを意図して作られたためか
イギリス人の格言好きを彷彿とさせる
「空腹は最上のソース」
「一杯の美味しいお茶はすべてのひとを若返らせる」と刻まれた碑銘が、
随所に散りばめられているのも見所のひとつ。
さらに素材にも洗うことができるものとして、
天井はエナメル・アイアン、壁はセラミック・タイルを使用、
19世紀のクラシック・リヴァイヴァル・スタイルでデザインされています。
カフェではサンドウィッチからサラダのような軽食から
ローストチキンやパイなどのしっかりした食事、
デザートからスコーンまでを取り揃え、まさに充実した品揃え。
その上、セルフサービスなので雰囲気はごくカジュアル。
お気に入りの場所に座ることができるのも嬉しいところです。
この日、外食続きで体調を崩した私がいただいたのは、
キャロット&ジンジャー、コリアンダーのスープとブラウンブレッッド。
滋味深いキャロットの味と身体を温めるジンジャー、
アクセントのコリアンダーの香りがきいた、素朴な味わい。
旅先で身体を労るような優しいメニューです。
イギリスでは軽い食事として季節の野菜を使ったスープが
メニューにあるところが多く、旅行で疲れた身体には
これが何よりありがたく感じます。
最も人気があるのは間違いなく、1866年から68年に
ウィリアム・モリスによって製作されたモリスルーム。
イギリスを代表するデザイナーにして思想家、画家と多くの顔を持つモリスは
1861年にモリス・マーシャル・フォークナー商会と設立。
初めての公共機関から依頼された仕事がこのモリスルームでした。
かつてグリーン・ダイニング・ルームと呼ばれたこの部屋は、
フィリップ・ウェブの手による陶板細工や、
エドワード・バーン=ジョーンズによるステンドグラスなど、
アーツ&クラフト運動の主役となったアーティストの作品が
惜しげも無く使用され、その美しいディテールは今も輝きを失っていません。
ここにただ座っているだけで、
このカフェが過ごしてきた150年近い歴史、
お金で買うことのできない積み重ねられた歴史の意味が
純粋に伝わってくるようです。
当時の粋を凝らしたモダンデザイン、卓越したクラフツマンシップが
融合された特別な空間は、V&Aならではの贅沢なひとときです。
STORE INFORMATION
VICTORIA & ARBERT MUSEUM
Cromwell Road, London SW7 2RL
http://www.vam.ac.uk