プロ料理家365名によるプロのレシピ4812

第46回 クリスマスに幸運を運ぶミンスパイ

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今年もクリスマスがやってきます。イギリスではクリスマスのディナーに食べるスイーツといえばクリスマス・プディングが有名です。今回ご紹介するミンスパイは日本ではあまり知られていないかもしれませんが、16世紀にまで遡ることのできる伝統的なイギリス菓子。ミンスミートと呼ばれるフィリングに、バターの風味豊かなペイストリー生地のパイに詰めた、とても素朴で懐かしい味わいのお菓子です。

本来「挽き肉」を意味するミンスミートは、レーズン、オレンジピ―ル、りんご、シナモン、ナツメグ、クローブ、ブランディーにスエット(牛脂。イギリスでは製菓用の顆粒状のものが販売されています)を混ぜて作ります。ミンスミートの語源は16世紀に挽き肉を腐らせないようにスパイスや高価であった砂糖の代わりにドライフルーツを入れていたのがその始まり。徐々に本来の挽き肉の割合が減り、現在では牛脂であるスエットを入れるのがその名残となっています。

少なくとも二週間は寝かせたものがおいしいとされているので、イギリスのクリスマスはミンスミートの準備から始まります。といっても、日本のお正月のおせちと同様に、ミンスミートを手作りする人は減少傾向にあり、この時期になると瓶詰めのミンスミートが一斉に販売される光景は、日本で栗きんとん用の栗の甘露煮がお正月前に販売される様子と全く同じです。

日本でも来たるべき新年の健康と幸福を祝っておせちをいただくように、イギリスではクリスマスから12夜(公現節)までの間に、毎日1個ずつ、合計12個のパイを食べると新しい年に幸運が訪れると言われています。

この時期、イギリスのスーパーマーケットやデパートの食品売り場には12個入り、24個入りなどのミニミンスパイが並び、人々はこぞってミンスパイを買い求めます。その姿を見ていると、国や宗教は変わっても、変わることのない人の気持ち、一年に一度のごちそうを人々と分かち合い、幸運を祈る気持ちは全世界共通なのだと感じるのです。

今年も一年ご購読いただき、ありがとうございました。そして来年もどうぞよろしくお願い致します。読者の皆様に素晴らしい新年の訪れとご多幸をお祈り申し上げます。
 

小松喜美さん写真

フード・ジャーナリスト 小松喜美

イギリスをメインにヨーロッパの魅力を食と文化の視点から紹介するフード・ジャーナリスト。料理・菓子は「ル・コルドン・ブルー」やパリの「リッツ・エスコフィエ」で学んだ経験をもとに、「食べることは生きること」を信条として、日々おいしいものを探究する日々をブログや雑誌媒体のメディアに掲載しています。

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