第37回 パリのクロックマダム
はじめてパリで食べておいしくて感激したもの、
ミルクの味が濃いのに後味がすっきりしたバター、
粉の味がギュッと詰まっている香ばしいバゲット、
ざっくりした層のひとつひとつがバターの香りとともに主張しているクロワッサン、
酸味も甘味もえぐみも、それぞれの味わいが強いくて濃い野菜や肉、
果てしないクリエーションの喜びを教えてくれるショコラなど、
やはりパリは「美食の都」、おいしいものとの出会いは数えきれません。
そんなおいしい出会いの中で
私の中で「パリの味」といえば思い出すのがクロックマダム。
ハムとチーズをはさみ、フライパンでチーズがとろけるまで焼いたクロックムッシュは
カフェの定番メニューとして有名なので、ご存知の方も多いでしょう。
ベシャメルソースをかけて表面がこんがりするまで焼いたものなど、レシピは様々です。
クロックムッシューに目玉焼きをのせたものがクロックマダムです。
日本でクロックムッシューは知っていたのですが、
はじめてクロックマダムの名前を知って
食べてみたのがパリだったからか、
それ以来、パリに行くと必ずといっていいほど食べるメニューとなりました。
東京で食べることもできますが、
やはり私にとってクロックマダムはパリの味。
名前の由来は定かではないのですが、1910年にはパリのカフェのメニューに
掲載されている記録があるほど、実に100年を超えるカフェの味。
紅茶に浸したマドレーヌの描写が有名なマルセル・プルーストの小説にも、
1919年に書いた『花咲く乙女たちのかげに』(『失われた時を求めて』第2編)では
クロックムッシュが登場しています。
パリのカフェでどこでも食べられる定番メニューなのですが、
私にとって大事なポイントがあります。
それは上にのっている目玉焼きが半熟状態で、
ナイフをいれた瞬間にとろりと濃厚な黄身が溢れだし、
熱々のグリュイエールチーズと一緒にソースとして食べられること。
いつ食べても外れがないのが、
ルーブル美術館のカフェ、ル・カフェ・マルリー。
パリで話題のホテルやレストランを手掛けてきたコスト・グループによる経営で、
ルーブルの輝かしい歴史を生かしたクラシックな建築デザインに、
コスト兄弟流のモダンな解釈を持ち込んだインテリア。
一番人気があるのは高い天井が印象的な回廊にある、
ルーブルのガラスのピラミッドが一望に見渡せるテラス席でしょう。
ルーブル美術館内のリシュリュー・ウィングにありますが、
早朝から深夜まで営業している上に、
ルーブル美術館の入場料を払わずに入ることができるのも便利です。
女性がひとりで立ち寄るのにもぴったりのカフェなのです。
世界に誇る芸術の都でもあるパリには大小様々の美術館が存在しています。
ルーブル美術館の隣にあるこじんまりしたパリ装飾美術館も、
アールデコやアールヌーヴォーに興味のある方にはお薦めです。
広大なルーブル美術館の素晴らしさは言うまでもありませんが、
クロックマダムと白ワインをいただいた後で、
お気に入りの美術館でアートと対峙しながら過ごすリラックスした時間が、
私的パリの楽しみ方となっています。
STORE INFORMATION
LE CAFE MARLY
93 rue de Rivoli -
Musee du Louvre
75001 Paris
Phone 01 49 26 06 60
http://www.louvre.fr/en/le-cafe-marly