第17回 イングリッシュ・サマーの楽しみ
イギリスの暮らしを通して、一年の中でいちばん美しい季節が夏だということは、イギリスに住む人ならだれもが認めることでしょう。長く陰鬱な冬を耐えていると、日射しが輝く夏を待ち焦がれる気持ちは、ことさらに強くなるようです。
肌にひんやりと感じる冷涼な空気の中で、いつまでも暮れない長い夕方。その時間を戸外でゆったりと過ごせるのはイギリスならではの夏の楽しみです。
いきなり気温が下がったと思うと、終わりを告げるイギリスの夏ですが、今のところ、今年は夏を満喫できる晴天が続いています。
この日はロンドンのデパートメント・ストア「ハ―ヴェイ・二コルス」で、友人と一緒に夕飯の買いものをしました。このデパートの5階にあるフードフロアは、独自の楽しいセレクションと、グラフィカルなパッケージデザインのプライベートブランドの食品で知られています。
ロンドンでは意外に簡単に手に入る「ポワラーヌ」のパン・ド・カンパ―ニュ、バルサミコ風味の地中海風サラダ、パテ・ド・カンパーニュ、イタリアン・サラミなどを買い、友人の家の庭で晩ご飯を食べました。冷たく冷やしたシャブリの白ワインと一緒に、買ってきたものを食べながらの友人との会話もごちそうのひとつ。全く料理をせず、ただ買ってきただけの簡単ごはんですが、それだけで充分な気持ちになるのは、目の前に広がる庭の緑が、格別にリラックスした気分にさせてくれるからでしょう。
イギリスの生活でいつも羨ましいと思うのが、住まいの後ろに広がるこんなバックヤードガーデンです。ロンドンなどの郊外でよく見かける、ごく一般的な住居であるデタッチト・ハウスやセミ・デタッチト・ハウスは、道路側に面する家の正面とは反対の裏側に、こうした庭がついていることからこの名前があります。こうしたバックヤードガーデンは決して特別なものではなく、普通の日常生活に存在しているもので、そのことが特に羨ましく感じるのです。
見た目に魅かれてつい買ってしまった「カルッチォズ」のケーキ。キュートなチョコレート・ベア・ケーキ、チャンキーなパイナップルの入ったキャロットケーキ、こってりしたアイシングのカップケーキ。
こうした典型的なイギリスの家には、住居と並んでほぼ同じサイズの庭がついているのですが、住む人によって思い思いにオリジナルの庭が作られているのも面白いことです。
訪れるたびに何かしら趣きが変わる友人の庭は、毎週末をDIYで過ごす御主人の手作り。物置もハンモックもウッドデッキも少しずつ空いている時間を見て作られたものです。ことさらに手をかけてはいないという庭ですが、少しずつ赤くなっていく林檎の木、自然に自生しているラズベリーやブラックベリーを張りきってつむ子どもたち、庭で家族と共に過ごす時間、普段となんら変わりない日常の生活を見るにつけ、お金ではだけではない、シンプルだけれども豊かな、イギリス流の毎日の暮らしがそこには在るように思うのです。
STORE INFORMATION
HARVEY NICOLS
FIFTH FLOOR FOODMARKET
109 - 125 Knightsbridge
London
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