プロ料理家365名によるプロのレシピ4812

第四回 「新鮮なフルーツの恵みを味わうハンブルグのケーキ」

ドイツのケーキというと、どんなイメージがあるでしょうか。

まず、大きいということ。ドイツにきてケーキを注文すると、最初に驚くのがその大きさです。日本のケーキのレシピは18cmのケーキ型を基準にしているものが多いのに比べ、ドイツは27cmが基準。どれくらい大きさが違うか、これで想像していただけるでしょうか。

一見、巨大でこってりしている様に見えるドイツのケーキですが、実際にいただいてみると、甘さは控え目、素材の持ち味を生かした素朴なものが多く、日本人には馴染みやすい味だということに驚かれるかもしれません。特に私のお気に入りのドイツのケーキ、今回ご紹介するシュトルーゼル・クーヘン(Streusel Kuchen)は、甘いパン生地の上に、季節のフレッシュなフルーツを散らし、シュトルーゼル(英語で言うならクランブル)をかけて焼いた、本来は家庭で焼くような素朴なケーキ。

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今回のトラベル・ダイアリーは、ドイツのハンブルグにある、なんとケーキが1種類しかないカフェ、「プチ・カフェ」をご紹介します。

ハンブルグはドイツの北西部に位置するベルリンに次ぐ第二の都市です。港湾都市ブレーメン同様、中世のハンザ同盟以来の自由な気風が今も残るハンブルグ。どこか明るくて開放的な空気が街の中にも漂っています。

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市の中心にアルスター湖という人工湖を抱えているため、日常的に人々が楽しむ水辺の豊かな暮らしぶりが伺えます。

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ハンブルグでも高級住宅街といわれるエッぺンドルフは、アンティークを扱うインテリア・ショップ、厳選された食品とワインが揃うデリ、テラスに地元の人々が集うイタリアン・レストランなどが、洗練された町の風景の中に点在しています。といっても、決して気取った感じではなく、自然な暮らしぶりの中にこれらのものがとけ込んでいて、町の中にもリラックスしたムードが漂っています。

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ここで毎日のように通ったお気に入りが「プチ・カフェ」。お店の外に並んだラタンの椅子や白いクロスのかかったテーブルがいかにもフレンチ・スタイル。こうしている間にも、次から次へとお客さんがやってきます。ここでのみんなのお目当てはオーブンから出てくる焼きたてのシュトルーゼル・クーヘン。

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オーブンの天板ごと、こうして店頭に並べられる焼き立てのケーキは、大きなシャベルのようなサーバーで取り分けられ、わら半紙のような紙で無造作にくるりと巻いた状態で、次から次へとお客さん達にテイク・アウトされて行きます。家族で午後のお茶をこのケーキと一緒に楽しむ様子が目に浮かぶようです。ここではケーキはこのシュトルーゼル・クーヘン1種類のみ。果物をのせないシュトルーゼルだけのごくシンプルなものから、ブルーベリー、プラム、チェリー、アプリコット等など、季節の果物の恵みを味わうバリエーションが多彩で、毎回どれにしようか、迷ってしまいます。

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この日はキルシュ・シュトルーゼルを選び、「Mit Sahne(生クリーム付き)」にしてみました。ドイツらしく量もたっぷり。日本人なら二人でシェアするのにちょうど良い量です。こんがりと香ばしいシュトルーゼルに、熱々の果汁たっぷりのさくらんぼ、果汁の浸みこんだほんのり甘いパン生地と、甘くないふわっとした口どけの良い生クリームの組み合わせは、ドイツのケーキのおいしさを存分に味わうことができます。

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まるで誰かの家に招かれたような、オーナーの落ち着いた温かいセンスが光る店内。配置されたソファや椅子に始まり、テーブルランナーからその上に置かれたシュガーポットまでがひとつひとつ違うデザインなのですが、不思議とすべてが調和しています。

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賑やかな表通りから隔てられたバックヤード・ガーデンにもこんな静かなカフェ・スペースがあります。訪れる人により、お気に入りのスペースがそれぞれあるようです。

シュトルーゼル・ケーキは昔から家で焼いていた伝統的なドイツのケーキ。ケーキのことで質問した私に、「レシピは私の祖母から代々伝わっているものなので、残念ながらお教えすることはできないの」と申し訳なさそうに答えてくれたオーナーの方の言葉がそれを物語っています。ドイツの季節のフルーツは保存が効かないものが多く、ジャムやこんな風にケーキに焼きこむことで季節の恵みを存分に味わう方法が昔から考え出されて来たに違いありません。季節の折々の焼き立てのケーキがいただける、こんなカフェが身近にあったら、日々の暮らしの中の楽しみがひとつ増えるような気がします。

STORE INFORMATION

Petit Cafe

Hegestrase 29
20249 Eppendorf,
Hamburg, Germany
+49 40 4605776

小松喜美さん写真

フード・ジャーナリスト 小松喜美

イギリスをメインにヨーロッパの魅力を食と文化の視点から紹介するフード・ジャーナリスト。料理・菓子は「ル・コルドン・ブルー」やパリの「リッツ・エスコフィエ」で学んだ経験をもとに、「食べることは生きること」を信条として、日々おいしいものを探究する日々をブログや雑誌媒体のメディアに掲載しています。

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