生きることは食べること。
命をいただくこと。
この言葉がいろんな場面で使われるようになってきたように思う。
私は生産者の一次情報を
良質な二次情報として発信したいと思っている一人だ。
時々、素人ゆえに生産者の方に無理なお願いをすることもある。
「去勢するところを見たいのです」
この言葉に本気で答えてくれたのが
十勝清水で十勝若牛を生産する「表牧場」さん。
私がお願いしても、誰もが「またまた~」とか「何言ってんの~」と軽くいなされちゃうことが多いけれど、表牧場の表裕一郎くんだけは「いいですよ、連絡します」と言ってくれた。
そして、去勢当日の朝
「今日の午前中にやります、来ますか?」と連絡が。
朝から打ち合わせが入っていた...。
でもこの機会を逃したくない。
打ち合わせを30分で切り上げ、急いで十勝御影にある表牧場へgo
少しスピードもオーバーしていたかもしれないが、私の頭の中もかなりオーバーヒート気味だった。
どんな形式でやるんだろう、
牛は暴れるんだろうか
その時、私はどんな気持ちになるのだろう...
運転しながら複雑な思いが続く。
到着してみると、既にこの日62頭の去勢予定だったのだが2/3は終わっていた。
「あ~、こっちこっち」と裕一郎くん。
強面の表パパには「あんなぁ~、高いよ~」と言われ、
なんだかちょされると(北海道弁で、いじられるの意味)、
少し親しくなってきたような気がして嬉しい。
さぁ、いよいよ去勢を見せてもらう。
この小さな囲いの中に、やさしく追って1頭ずつ入れていく。
決して引っ張ったり、押したりはしない。
ここからは危ないよとまるで両親が手を広げて子供を守るかのようだ。
(カバディみたいにも見えるw)
表牧場の特徴は「哺育技術の高さ」と言われている。
確かに、いついっても牛たちはとても綺麗でピカピカしている。
十勝若牛は通常のホルスタインが20か月出荷なのに対し、
14か月齢で出荷するから、実は子供の頃に病気や瑕疵があると取り返しがつかない。
だからこそ、哺育に力を入れているし、愛情深い。
表くんのお父さんはちょっと怖いけど、愛がイッパイだ。
さて、いよいよ去勢。
袋を切って、玉を2個取り出し、先がかぎ状になっているドリルのようなもので、精管(っていうのかな?)をくるくる...と巻きつけて切り落としていく。
終わったらヨードチンキを付けて終了。
ちなみにフリーマーチンの牛は、乳首を切る。
「メスとして出荷する悪い親父がいるからよー、一目でわかるようにこうなっちまったんだよ。切る必要ないのに可哀想だよな」とは、表パパの言葉。
ほとんど出血もないが、最初に見た1頭はびっくりしたのかウンチをしてしまった。
下記は取り出したばかりの睾丸。軍手は色んなものにまみれている。
最初の一頭の去勢を見た時に、私の頭の中は驚いたことに「無」だった。
そして、じんわり込みあがってきた感情は「感謝」だった。
「ありがとう」この一言がポロリとでた。
そして、そのあとはずっと彼らを応援していた「ガンバレ―」「ガンバレ―」と。
そのことを裕一郎くんに伝えると、
牛の人生を考えるとそうなりますよね、と言われた。
私は人間というカテゴリーにいる自分の傲慢さを思い知った。
去勢が終わった後の牛たち。
彼らの睾丸をいくつか貰って帰ることにした。
食べてみようと思ったからだ。
外の皮を2枚むいて、食べてみた。
色んな想いは除くとしても、とっても複雑な味がした。
ありがとう、感謝してます。