どうもありがとう!ホクシン
”ホクシン”と聞いてピンとくるあなたは相当な小麦粉事情通だ。
うどん用として、中力粉の代表格になる。実際はホットケーキやフランス・ドイツパンのハード系もできる小麦だ。実際、うどん文化のある日本の主流品種は中力小麦であるため、パン用強力粉と呼ばれる小麦のほとんどは、カナダ産かアメリカ産である。
その”最後のホクシン”の収穫が、うちでは7月28日、29日に行われた。上記写真は7月23日。かなり乾燥が進んでいる。
なぜ最後というと、このホクシンという品種は北海道全体で実質今年で生産を終了してしまうのだ。かれこれ20年近くに渡り北海道の代表小麦どころか、実質国産麦の40%近くを供給してきた"The king of Japan's No1 Wheat"だった(今年平成22年産まで)のだ。
なぜこれほどまでのスンゴイ小麦ちゃんが名前も知られてないのか?小麦は本来製粉され出荷される。あくまで品種名なので、各製粉会社ではブランドネームが独自であり、また他小麦とブレンドすることにより、加工に適した粉や各年の小麦の品質のバランスをとる必要性があるため”ホクシン”というブランドネームでは売られていない。
北海道の農家なら知らない人はいないが、町の人もしらない影の巨人。次世代へのバトンタッチの転換期が今年なのです。私が就農したころにはすでにこの品種で、その前のチホク、ホロシリ、タクネなんかは父達の代でやっと小麦つくりが定着したころ。このホクシンデビューで北海道の小麦の安定生産は可能になったといって過言ではないだろう。それまでは、穂発芽や病気やらで品質も収量も安定化しなかったと言われている。
昨年(平成21年)は収穫時のあまりの雨にたたられ、ホクシンの評判は農家間では落ちてしまったがそれでもこの品種がなかったらどうなっていたんだろう?うちも今の状態じゃなかったんじゃないかなと思ったりした。これだけのロングセラーの品種を世に輩出した北見農業試験場の人はエライ!!北海道ノーベル小麦賞ものだ。
あっ、収穫、収穫。正直な話でいうと29日が曇り雨ということで、こちらは感謝をかなり忘れて大急ぎで収穫に向かった。水分は3枚の圃場で水分は20~25%。明日の雨を考えたら一秒も無駄にできない、夜には露も上がってくるし。コンバインもトラックも乾燥機も、もちろん人間も絶対に壊れちゃいけない状況に陥り・・・。
ホクシンも”きたほなみ”も実際には、実が細い麦(細粒)が多く見られました。今年は5月まで寒く、6月、7月急激に温度が上昇。特に受粉時(6月20日くらい)以降の成熟期、登熟期にむけて最高気温が30度以上の日が例年以上に多く、急に干上がってしまうような状況になったのかもしれません。確かに、普段通りの9月下旬に種まきして、7月25日前後に収穫してるとなると、3~5日くらい早まったくらいだし、途中の5月は寒くて約5日くらい生育が遅れているっていってたもんな~。作物もゆっくりしていいだか、早くしていいんだか混乱してるべな。写真は6月27日花も終わり、乳熟期に突入。ところが暑い日々が~~!
28日は頑張って朝4時(収穫2時)まで。29日は雨をまってられないため朝6時から収穫。すべては7月27日の午後からの雨で計算が狂ってきたのでした。この日の雨は誰も聞いていない!!天気予報も全く言ってない!!これだけ晴れれば急な雷雨の発生もあり得るのはわかるけど・・・。
29日にホクシンは無事収穫を終え、最後の圃場は持ってくれた天気にも、そしてホクシンにも感謝をささげ、”お疲れ様でした~いままでありがとね~”と思いました。きっと私にとっては、就農してから一代大きく品種が変わるだけなのでそんなんでもないのかもしれませんが、父世代にとってはかれこれ3,4代目くらいになるので、感慨もひとしおの農家さんもいるかと思った。
Thank you very much, "Hokushin"
P.S.ちなみにホクシンは全道の一部で生産が残ると報道されています。全粒粉を好んで使うパン屋さんも”あのフスマの香がなんともいいんだよ!”という方もいたり。やっぱり麦の美味しさって外皮にも秘密がありそうです。